青零(セイレイ)

映像制作・作詞担当のアオねこ(aoneko)と、ボカロP・トラックメーカーのヒズミ零(cutable)の情報をまとめた公式ブログです

【楽曲解説】Dream Diary

楽曲情報

cutable『Dream Diary Page.01』Track.09

Dream Diary

 

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アルバム唯一の力作

こんばんは~cutableです。

今回でようやくDream Diary Page.01の楽曲解説が終わります。長かった…。

2020/03/06リリースなので、半年以上かかりましたね。あまりにも怠惰すぎる。

 

というわけで、アルバムを締めくくる最終曲「Dream Diary」の解説です。

曲名がもうストレートすぎますね。シリーズタイトル使っちゃってるし。

満を持して、っていう感じでしょうか…。

 

これまでの曲のほとんどは、メロディやパッドなどをサンプルパックに頼っていて、ある意味「1から作った感がない」んですが…。

この曲に限っては、メロディもコードも自分で考え、ドラムやエフェクト以外の部分はほとんどサンプルパックを使っていません。

要するに、胸を張って「完全オリジナルの曲です!」と言える曲だということです。

ちなみに何故この曲だけ1から作ったかと言うと、とある楽曲公募に応募するためです。まぁ、落選したからこそ、このアルバムに入れたんですが…

結構自信作です。とはいえ、プロジェクトファイルを見返してみると、やっぱり色々と処理やミックスが甘いんですけどね…。ちなみに何の公募かはジャンルで察してください

Lo-fi Hip Hopの大流行

この曲はLo-fi Hip Hopというジャンルです。最近、世界中で大流行しているチルアウトミュージック。

Lo-fiというのはLow Fidelity、すなわち「低音質」であることを意味します。

直訳すれば「低音質ヒップホップ」です。すんごい悪意のある言い方…。

 

しかし、Lo-fiという言葉は、基本的に良い意味で使われる言葉です。

昔は罵倒の言葉だったのかもしれませんが、現在では「低音質ならではの独特な味」を褒める意味合いの方がずっと強いと思います。

インスタントのフィルムカメラ「チェキ」が再流行したのと似てますね。

 

かつて、音楽は全てアナログ方式で作られていました。

用いる楽器はピアノやサックスなどの生楽器ですし、生楽器でなくともアナログシンセサイザーです。

録音方式も同じくアナログです。レコード、テープなど…。

 

しかし、アナログ方式の録音では、音の劣化が生じます。

例えば、高音が弱くなる「ハイ落ち」が起きて、音が籠ってしまったり…。

例えば、録音音量が大きくなるにつれ音の歪みが増大してしまったり…。

例えば、レコードやテープの歪みなどで音程や音量が不安定になったり…。

例えば、レコードやテープの傷でノイズが入ってしまったり…。

それ以外にも、保存状態が良くとも入ってしまう「テープノイズ(ヒス)」「ビニールノイズ」など…。

 

かつての人々は、こうした音質の劣化を憂いて、高音質で録音できるデジタル技術を音楽に持ち込みました。

かくして、音楽のほとんどはデジタル化され、高音質になって音が綺麗になり、全人類が幸せに…なるはずでした。

 

しかし、近年になると、音がクリアすぎたり綺麗すぎたりするEDMの台頭、高音が耳に痛いシンセリードの耳障りな音に「コレジャナイ感」を覚える人が現れるようになりました。

そういった経緯があって「アナログ独特のノイズとか歪みとか、あれの方がそれっぽかったんじゃね?」という流れになります。

だいたいそんな感じで、1990年代のブーンバップ系Hip Hopを、現代のデジタル技術で再現し直したのがLo-fi Hip Hopと呼ばれるジャンルなのです。

 

Lo-fi Hip Hopを聴くならこれ

しかしながら、Lo-fi Hip Hopがここまで大流行したのは「技術決定論への異議申し立て/デジタル台頭によるアナログの再評価」という、評論家・哲学者・美学者などの偉そうな人たちによるものではありません。

Vaporwaveはこうした美学がものすごく意識されますが、Lo-fi Hip Hopはそうでもありません。

 

Lo-fi Hip Hopがここまで大流行したのは、単に「落ち着いていて聴き心地が良いから」だと僕は考えています。

アナログやデジタルがどうだとか、消費資本主義がどうだとか、そういう面倒で心を疲れさせる厄介な問題なんて、我々の多くにとってはどうでも良いもの。

まずは1曲聴いてみてください。僕の一番好きなLo-fi Hip Hopです。

(ちなみに、Dream Diaryはこの曲をリスペクトしていて、テンポも同じ83BPMに設定しています)

 

どうでしょうか。ゆったりとしたテンポ、柔らかく綺麗なピアノの音色、耳障りな高音に邪魔されないリラックス感、どこか懐かしいレコードのノイズ感…。

こうした「日常に溶け込む音楽」という性質が、大流行の一因のようですね。

リラックスするときのヒーリングミュージックとして、作業や勉強をするときのBGMとして、睡眠用BGMとしてなど、様々な場面で聴かれ愛されているジャンルです。

実際、日常のなかで流しっぱなしにできるよう、数多くのYouTubeライブ配信ラジオが開設されています。

 

 

ここに挙げたのは、大手レーベルが行っている24/7のストリーミング配信です(24/7というのは24時間7日間=年中無休ということ)。

他にもたくさんのレーベルがあり、数えきれないほどのライブ配信が放送されています。

小規模なレーベルだと曲数のバリエーションが少ないこともありますが、レーベルごとに流れる曲が少し違いますので、好みのストリーミング配信を見つけてみると良いと思います。

 

想像より遥かに作るのが難しいジャンル

しかし、Lo-fi Hip Hopは作るのが異様に難しいです。

大流行ジャンルですので、当然チュートリアルもたくさんあるのですが…。

どのチュートリアルを読んだり見たり聞いたりしても、どうも上手く「それっぽい」曲にならないんですよね…。

 

まずドラム。ドラムはサンプルパックを買えば楽ですが、思った通りの音が無いことがあります。

また、ビートを組むのも簡単ではありません。ループ素材を使えば問題ありませんが、思った通りの音が(以下略)。

 

音作りも難しいです。Lo-fiな質感にするプラグインが多数販売されており、中には高品質なフリーvstも配布されていますが、それを使ってもそう簡単にはいきません。

そもそも、どの音源を選ぶかという問題があります。どのピアノ音源を使うんだとか、ローズピアノ音源ってどこにあるんだとか、EDMを作ってる人間がギター音源なんて持ってるわけないでしょっていう問題だとか…。

とにかく、Lo-fiな、1990年代らしい音を再現するのは至難の業です。僕自身、Lo-fi Hip Hop「もどき」しか作れません。

 

そして、ミックスも難しい…。音の隙間が上手く埋まってくれません。

とはいえ、パッドを入れると「コレジャナイ感」が出ます。

じゃあディレイとリバーブを…と対処してみても、やっぱり何か違います。

そのうえ、高音が弱く、音が籠って聴こえるので、音同士が喧嘩してゴチャゴチャになっているように聴こえます。

 

「Lo-fi Hip Hopは誰でも作れる」「初心者でもパソコンがあれば簡単に作れる」と言われることが多いですが、僕は全くそう思いません…。

めちゃくちゃ作るの難しいです。次回からはサンプルパックをバンバンに使って作って練習しようと思います。

サンプルパックを使えば多少は作るのが簡単になります。

 

使用した音源

ベース

ベースにはXfer「Serum」を使いました。サブベース系の音なのでDIGINOIZ「Subdivine」を使っても良かったんですが、この頃は持ってなかったもので…。

 

プリセットはLP24AUDIO「Serum - Ambient Chillout」の「BASS - Essential Subs」を使いました。

そういえば、Lo-fi Hip Hop向けのシンセプリセットって極端に少ないですね。

そもそもシンセで作るようなジャンルではないから…なのでしょうか。

 

ちなみに、ベースにはピッチベンドをかけていて、音程がぐねぐねうねうね動きます。

ポルタメント機能を使うのも良いですが、あれはなんかめんどくさいので、使いませんでした。

それから、キックをトリガーにしたサイドチェイン(ダッキング)も欠かさず行っています。

 

ピアノ

ピアノは例によってThe Grand…じゃないんですよね、今回だけは。

今回だけ、気分転換ということで違うピアノ音源を使ってみました。

とはいえ、その音源はCドライブの容量削減のためアンインストールしてしまい、何の音源だったか忘れてしまったんですが…。

 

確か、同じNative Instrumentsの「The Maverick」というピアノ音源です。例のアレと一緒に、Kompleteに入ってました。

緑のインターフェースが印象的だったので、多分間違いないと思います。

でも、ぶっちゃけ、どちらの音も似たり寄ったりで聴き分けがほとんどできません。

それゆえ、使用頻度の低いこいつはアンインストール送りに…。

 

ちなみに、今回はピアノの音を一旦書き出して(バウンス)、所々音を逆再生させています。リバースピアノってやつですかね…?


ローズピアノ

ローズピアノはエレクトリックピアノ(エレピ)の一種です。

Lo-fi Hip Hopでよく耳にするので使いたくなりました。

しかし、ローズピアノの音源なんて持っておらず、困って「アレ」を覗いてみたら…。

ありました。そう、SPECTRASONICS「Omnisphere 2」です。

 

「あの音が無い!どうしよう!」と困ったらまずはこいつを開きます。

大抵の場合、95%くらいの確率でそれっぽい音が入ってます。

今回は「Mellow OrganRhodes」というプリセットを選びました。

綴りで分かると思いますが、ローズピアノのローズはRose(薔薇)ではありません。

薔薇の方がオシャレなんだけどな…。

 

なお、ピアノ・ローズピアノ共に、メロディとコードを一緒に弾いています。

 

ギター

ギターも「Omnisphere 2」です。コードの補強として入れる予定でした。

「予定でした」というのは…何を隠そう、どうやらこのレイヤーをミュートにしたまま曲を書き出してしまっていたためです。

何と、入れるつもりだった音を入れ忘れていたみたいです。なんて様だ…。

「Fingerstyle Octaves」という音を使う予定でした。こんなガサツな作曲してるから落選するのでは…

 

オルゴール

オルゴールの音もやっぱり「Omnisphere 2」。今回大活躍の音源ですね。

こちらはギターとは逆に、メロディの補強として入れています。

こちらは聴き取りづらいですが、一応ちゃんと音は入ってるみたいです。

「Music Box Guitaret」というプリセットを使いました。

 

オルゴールその2

もう一つ、アルペジオとしてもオルゴールを鳴らしています。

こちらはNative Instruments「Kinetic Metal」というKontakt音源です。

確か1曲目でも使いました。今回は「Sword Glissade」を使用。

 

使用したサンプルパック

キック、スネア、ハイハット

ドラムの基礎部分にはAPOLLO SOUND「Lofi Hip Hop Drums」を使用しました。

キックには「LHD_Kick_26」。スネアには「LHD_Snare_26」。ハイハットには「LHD_Hihat_17」。どれもとても良い音です。

Lo-fi Hip Hopのサンプルパックには「そうじゃないんだよ~」っていう感じのドラムワンショットが入っていることが多いのですが、このサンプルパックは割と良い感じでした。

 

ドラムは珍しく自分で打ち込みました。しかもステップシーケンサーで。

色々パターンを作って展開させたかったからだと思います。

音に強弱をつけて、良い感じのグルーブを生み出している…つもりです。

ハイハットは微妙に音のタイミングをずらして、生っぽさを演出…できてるのかな。

 

ちなみに、APOLLO SOUNDはLo-fi Hip Hopにかなり強いメーカーです。

この「Lofi Hip Hop Drums」は好評だったのか、2も出ています。

他にも色々Lo-fi系のサンプルパックがあるので、探してみてください。

(ただし、現時点でSonicwireに置いてあるのはこの2つだけなので、公式サイトからどうぞ。セールもよくやってます。しかもかなり割引率が高いです)

 

パーカッション

ハイハット以外の上物には他のサンプルパックのループ素材を使っています。

 

1つは、GHOST SYNDICATE「Amber」です。こちらもLo-fi Hip Hop系のサンプルパック。

今回は「GS_AMBR_75_Drum_01_Perc」を使いました。

ちなみに、このメーカーは「Stardust」という姉妹品もリリースしています。

ジャケットが似ていて紛らわしい。でもオシャレ。

 

もう1つは、恒例となりつつあるTEMPORAL GEOMETRY「Intelligent Machines / Minimal Glitches」です。

なんでLo-fi Hip Hopにグリッチを入れようとしたんでしょうか。ぶっちゃけ、かなりおバカだと思います。

今回は「IntelligentMachines120bpm073」「IntelligentMachines120bpm076」を召喚。


トランジション

トランジションは

(逆再生したリム+スナップ)+ノイズ系のライザーの音

といったように、3つの音から構成されています。

 

リムは例によってBLACK OCTOPUS「Ambient Rimshots by AK」です。

もう便利すぎて。でも、この曲では逆再生して、普段とは違う使い方をしています。

今回は「AR_Rimshot_095」を選びました。

 

「001から探していると偏るから100から探そうかな」「あっ095いいじゃん」

と安直に選んだ過去の自分の姿がありありと想像できます。

 

スナップの音はキックなどと同じく、APOLLO SOUND「Lofi Hip Hop Drums」です。

今回ドラムの大半がこれですね。「LHD_Snap_11」を使いました。

これらの逆再生リム+スナップを組み合わせて、スウィープっぽいエフェクトにしています。

 

ここにさらに、SOUNDBOX「Impacts Risers & Drops」を重ねています。

これも恒例ですが、今回はEDMっぽい派手な音ではなく、比較的静かなスウィープ系の音を選んでいます。「SB_IR&D_RISERS_128_082」です。

これにEQやらリバーブやら色々かけて、よりアンビエントっぽく加工しています。

 

テクスチャー、フォーリー

テクスチャーとして、雨の音をうっすら入れています。

本当はビニールノイズを乗せるのが王道なんですが、それをやるといかにもベタっぽいので、今回は雨の音にしました。

 

使ったのはDIGITAL FELICITY「Lo-fi Beat Tools」というサンプルパックなんですが…。

実はこのサンプルパック、地雷です。買わない方が良いと思います。

その理由はサンプルパック・アーカイブの方でいつか詳しく書くと思いますが…。とりあえず、それ以外のサンプルパックを探した方が良いと思います。

とはいえ、せっかく買ったのに使わないのはもったいないので、「6. Rain Sample」を一応使いました。クオリティが低いわけではないので、使う分には問題ありません。

 

それ以外のフォーリーは、2曲目と同じく、フリーSE素材サイトから落としてきました。

兄曰く「夜中ふと雨音で目が覚めて、布団から出て机に座ってノートを開き、夢日記を書き留めてから二度寝する」というストーリーにしたかったらしく、その通りにフォーリーを混ぜています。

 

布団からもぞもぞ出てくる音、部屋を歩いて机に近寄る音、椅子に座る音、机のライトを付けるスイッチの音、引き出しを開く音、引き出しを漁って日記帳を探す音、引き出しを閉める音、日記帳を開きめくる音、シャープペンシルをノックして芯を出す音、日記帳に文字を書く音など…。

 

よくよく聴いてみると、色々な発見があると思います。

是非、物音に注意して聴いてみてください。

 

やっと終わったー!!!

というわけでようやく、Dream Diary Page.01の全曲解説が終わりました。

早くボカロ曲やDream Diary Page.02の解説もしなければ…。

幸い、2020/09/06にリリース予定だったアルバムは2020/12/06に延期することになったので、少し猶予ができましたね。

 

というわけで、全9曲の楽曲解説にお付き合いいただきありがとうございました。

それでは、また次の楽曲解説で。さよなら~。