青零(セイレイ)

映像制作・作詞担当のアオねこ(aoneko)と、ボカロP・トラックメーカーのヒズミ零(cutable)の情報をまとめた公式ブログです

【楽曲解説】wind evil 風邪で

楽曲情報

cutable『Dream Diary Page.01』Track.06

wind evil 風邪で

 

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なんだこの曲…

ここまでDream Dairy Page.01の楽曲解説をしてきましたが、この曲は何かと異質ですね…。

 

まずタイトル。なにこれ?「wind evil 風邪で」って…。

しかも「wind evil」じゃなくて「wind evil」です。このご時世、まず見かけないであろう全角英数字です。

そんで「風邪で」って何???日本語の文法おかしくない…?

 

それから、この曲だけ何故かボーカルがあります。

しかも普通のボーカルじゃなくて、ピッチを無理矢理下げられていて、おっさんみたいな声になってる…。

本当に意味不明な曲です。

 

はい、実はこの意味不明な曲の正体は「Vaporwave」というものなんです。

 

Vaporwaveについて

Vaporwaveは元来、社会思想(特に消費資本主義批判)と密接に関係する分野です。

でも、僕はそういったものにあまり関心がないし、このブログは社会を論じる場でもありません。

なので、Vaporwaveの音楽的特徴についてだけ触れることにします。

 

Vaporwaveというのは、1980年代あたりの昔の音楽を拾ってきて、それを加工して作られる音楽ジャンルのことです。

主な加工方法としては、スロー再生(によるピッチ低下)、カットアップ(音の切り貼り)、フランジャー加工やディレイ加工などがあります。

要するに、昔の音楽をスロー再生したうえであれこれ弄って作る、ちょっと異端でおふざけにも近いジャンルです。

 

実際に、Vaporwaveの代表的な曲を聴いてみましょう。

この曲が収録されている『フローラルの専門店』というアルバムは、世界初のVaporwaveアルバムだと言われています。

 

前述した通り、Vaporwaveは昔の曲を加工するタイプの音楽です。

それゆえ、この曲にも原曲が存在します。↓これです。

 

Vaporwaveで最も特徴的なのは、スロー再生によるピッチ低下です。

上の曲を比較して聴いていただければ分かりますが、女性ボーカルのピッチが下がっておっさんみたいな声になっていますね。

また、原曲のように、1980年代の曲のスネアはプシッという独特な音がしますが、これのピッチを下げると、プシャァ…という腑抜けた音になります。

ドラム(特にスネア)の独特な質感もVaporwaveの特徴の1つです。

 

ちなみに、スロー再生ではなく、早回ししてピッチを上げるとFuture Funkという別ジャンルになります。

なので、スローにすることがVaporwaveの必要条件となります。

 

それから、2曲を比較すると分かりますが、曲の長さが全然違います。

また、曲の展開も全然違います。

つまり、Vaporwaveでは、原曲の音を切り貼りしたり、並べ替えたり、同じフレーズを繰り返したりして再編集してるというわけです。

スロー再生するのはパソコンさえあれば誰でもできるので、ここがアーティストの腕の見せ所ですね。

 

もう1つ重要な要素は、タイトルの意味不明さです。

上の曲のタイトルは『リサフランク420 - 現代のコンピュー』です。

なんだこれ…リサフランクって誰?420って何の数字?

それから「現代のコンピュー」って何?「ター」どこいったん???

 

…みたいな感じで、とにかくタイトルが意味不明です。

さらに言うと、タイトルは日本語ですが、この曲を作ったのは日本の方ではありません。

つまり、海外の方が、わざと日本語のタイトルをつけて、文法をわざと破綻させているというわけです。

 

何故かVaporwaveのタイトルには日本語(たまに中国語)が混じることが度々あります。

(これは前述した消費資本主義と多少関係がありますが…省略)

それも、ちゃんとした日本語ではなく、機械翻訳を通したような文法ズタズタのアヤシイ日本語です。

また、英語のタイトルでは、全角英数字が使われることがしばしばあります。

そう、「wind evil 風邪で」はこうしたVaporwaveの意味不明なタイトルをオマージュしたものなんです。

 

合法Vaporwave

とはいえ、Vaporwaveには著作権の問題が常に纏わりつきます。

当たり前ですね。昔の曲を勝手にサンプリングしていますから…。

 

一応、販売してお金にしなければ、原曲の制作者もとりあえずは黙認してくれるかもしれません。してくれないかもしれないけど。

でも、Vaporwaveを売って金儲けとなると、流石に原作者もキレますよね。

普通に著作権違反(特に同一性保持権、複製権、送信可能化権などの侵害)になります。

最悪の場合刑務所行きです。こわいですね。

(ちなみに著作権のことはお兄ちゃんに聞いた)

 

「じゃあ、どうしてお前はVaporwaveを売ってのうのうとしているんだ?」

と思われる方もいるかもしれません。

簡単な話です。自分で原曲を用意すればいい。ただそれだけです。

 

Vaporwaveは1980年代っぽい曲をサンプリングする必要がある。

それゆえ、売ることができない…。でも、売りたい…。

そうだ!なら、自分で1980年代っぽい曲を作って、それを加工してVaporwaveにすればいいじゃないか!

という極めて単純な思考回路です。

 

僕の場合、1980年代っぽい音楽を作ることが得意ではないので、今作ではコンストラクションキットを使いました。

でも、コンストラクションキットはお金を払って素材の使用権を買うものだし、加工すれば販売も全く問題ないわけです。

なので、堂々と、合法的にVaporwaveを販売できるということなんですね。

これが合法Vaporwaveです。なんか「合法ハーブ」みたいな響きでイヤだけど。

 

「wind evil 風邪で」について

だとしてもこのタイトルは何なの?という感じですよね。wind evilって何?風邪が何だって?

 

「wind evil」は「風邪」を一文字ずつ無理矢理和訳したものです。風邪はwind。邪はevil(悪)。

「風邪で」の「で」は、日本語の文法がぶっ壊れてる感を出したかったので適当な助詞を引っ付けただけです。

 

ちなみに、何故「風邪」をモチーフにしているかというと、Vaporwaveはその奇抜なジャンル柄、「風邪ひいたときに見る夢」と喩えられることがあるからです。

要するに、この曲は「風邪ひいたときの夢」をイメージしています。

「脳が腐りそうよ」と言わんばかりのボーカル、「だらしねぇな♂」と言わんばかりのスネアなどから、そんなイメージが伝わってくる…はず。

 

それと、これもすごい細かい裏話なのですが、この曲は74BPMです。

風邪ひいたときに食べるものと言えば、だいたい梨かりんごなので「梨(74)」の当て字をテンポにしました。

もちろん、曲の内容自体に梨要素は一切ありません。梨を切るフォーリー音でも入れとくべきだったかな。いや、そんなサンプルパックあるのかな…。

 

曲の制作手順としては、本来のVaporwaveと同じように、

「原曲を作る→一旦wavで書き出し→別プロジェクトでスローにして加工しまくる」

といった手法を取りました。

 

ちなみに、「音質の悪い昔の曲を、現代の技術で無理矢理高音質にする」というありがちなやり方まで模倣したかったので、あえて原曲の音質を下げて書き出し、後から無茶な加工で音質を無理矢理良くしています。

 

使用した音源について

1980年代っぽい音源…?

今回はVaporwave、すなわち1980年代の音楽をモチーフにしています。

 

前述した通り、今回はコンストラクションキットを使って原曲を作りましたが、原曲のままではやや現代感が強くそのままスローにするだけではVaporwaveらしさがあまりありませんでした。

 

そこで、コンストラクションキットのメロディを他の音源で鳴らし、その音を重ねています。

ただ、いつも良く使ってるゴリゴリのシンセ音…例えばSerumとかMassiveとか…

で音を足すのは、ちょっと1980年代っぽくないんです。

 

1980年代といえば、やはり生楽器が主流の時代です。

生ドラム、ピアノやオルガンやギターなどの生楽器、加工無しのボーカルなど…。

そういうのが主流でそた。

 

もちろん、1980年代にもシンセサイザーはありましたが、当時はおそらく全てアナログシンセです。

なので、ソフトシンセはそのまま使うとアナログシンセ独特の雰囲気が出ないため、シンセ音を使う場合は多少工夫が必要です。

 

ちなみに、SerumだとLP24AUDIO「Analog Feel」というシンセプリセットがあります。

バカみたいに高い(シンセプリセットなのになんと1万円)ですが、

ソフトシンセのSerumでアナログシンセっぽい音が出せます。

僕はセールで半額になってるときに買いました。言うまでもなく未だに使ってません。

 

とはいえ音楽は自由ですので、ゴリゴリのシンセを鳴らすVaporwaveも全然アリですし、Hard Vaporというジャンルもあるみたいです。

ただ、今回は1980年代っぽさ(というか、漠然とした昔のチープ感)を出したかったので、今回はいつも愛用しているソフトシンセたちを封印しました。

 今回はアナログシンセっぽい音ではなく、生楽器の音を足しています。

 

Xpand! 2とかいう謎シンセ

とはいえ、僕は完全なデジタル人間。生楽器の音源なんてほとんど持ってません。

 

持ってる生楽器音源といえば、Konpleteに入っているKontakt音源くらい。

それでも、容量の関係で、インストールしている音源はピアノくらいしかありません。

かつ、どの音源もクオリティが高いがゆえ、逆に1980年代のチープさが出ないという問題にぶち当たりました。

 

これは困ったな…と思ったときに思い出したのが、AIR Music Technology「Xpand! 2」という音源でした。


こいつは確かセールのとき、90%オフとかで買ったような覚えがあります。

下手したら95%オフとかだったかもしれない。価格ぶっ壊れセールですね。

 

このサイトでは、75~95%オフくらいの価格ぶっ壊れセールをたまにやっています。

ただ、どのプラグインでもぶっ壊れセールをやってくれるわけではありません。

ぶっ壊れセールをやるのは、だいたい一部の限られたしょぼいB級メーカーです。

ちゃんとしたメーカーだと最大でも50~60%オフが限度です。

 

ぶっちゃけ、こうしたB級メーカーは

  • 全然売れないからめっちゃ値引きしてでも売りたい
  • 割引率の高さで釣って、初心者DTMerに買わせるよう仕向けている
  • だから頻繁にセールしてて、割引価格が実質的な販売価格
  • しかもセールしてないときに売れたらガッポリ儲かる

みたいな考え方で価格ぶっ壊れセールをやっている印象があります。

 

というわけで…かつて初心者だった僕も、まんまと騙されて買ったというわけです。

一応ちゃんとした商品ではあるので、詐欺商品とかではないのですが…あまり使いどころがないのが現状です。

初心者のうちはかなり使えると思います(無料のプラグインよりは確かに良いです)。

ただ、やはり中級者以上になると、まず使うことはないと思います。

 

しかし、このXpand! 2は、そのチープさゆえ、今回かなり活躍してくれました。

Xpand! 2はサンプラーのような音源で、生楽器の音がたくさん入っています。

 

今回はエレクトリックピアノ「Harmonics EPiano+」と、ギター「56 Strat+」の音を使いました。

良い意味でリアルじゃなくてチープ感があり、今回の曲には割と合いました。

 

ただ、Xpand! 2の上位互換としてSPECTRASONICS「Omnisphere 2」という音源があるので、お金がある人、ちゃんと音楽を作りたい人はそっちを買いましょう。


なんか便利そうなフリープラグイン…

ところで、今回はとあるプラグインを初めて曲のなかで使いました。

それはiZotope「Vinyl」というプラグインです。

 

iZotopeといえば、AIでミックス・マスタリングする、オレンジ色と青色のプラグインでおなじみの超有名メーカーです。

 

…僕は「AIでミックスって言ったって、キックとベースのチャンネルを別々に指定しなきゃいけないなんて…ガバキックみたいなキックとベースが一体化した音が考慮されてない…」っていじけてるんですけどね…。

 

それでも、ガバキックの音作りではiZotope「Trash 2」とかよく使いますし、ボーカル加工ではiZotope「Vocal Synth2」とかたまに使うので、そこそこお世話になってはいますね。

 

あと、プラグインのジャケット綺麗…やっぱり僕もiZotope教に入信しようかな…。

 

その超有名、超高品質なメーカーが出したフリープラグイン、それこそがiZotope「Vinyl」というわけです。

無料ですが、やはりiZotopeが出しているということだけあって、とってもクオリティが高く、これに置き換わるプラグインもほぼありません。

なので、無料だからと嫌厭せず、是非とも使ってみてほしいプラグインです。

 

プラグインの概要としては、昔の古いレコードの質感を再現する汚し系、といった感じです。

埃によるノイズ、デジタルノイズ、レコードのゆがみによるピッチ変化など、とにかくレコード独特の音質の再現に特化したプラグインです。

 

今思うとVaporwaveはレコードみたいなアナログ感より、どちらかというとサイバーパンクっぽいデジタル感(というより、アナログとデジタルの間?)の方が強いような…。

このプラグインはVaporwaveよりLo-fi Hip Hopとかの方が合うと思います。

 

でもまあ、音が綺麗すぎる(Lo-fiじゃなくてHi-fiだった)気がしたので、とりあえず音を汚すプラグインを使ってみたという感じです。実際、なんかそこそこ良い感じになりました。

 

使用したサンプルパック

ドラム

Vaporwaveは1980年代の音楽の焼き直し。だから、ドラム隊も1980年代の昔っぽーい感じにする必要がありました。

 

今回はLANIAKEA SOUNDS「Retrowave」というサンプルパックから、全てドラムの音を引っ張ってきています。

ちなみに、RetrowaveはSynthwaveというジャンルとほぼ同一のものです。

Synthwaveは1980年代の最先端デジタル音楽を現代の技術で再現、再解釈し直したジャンルです。

なので、Vaporwaveと相性が良いジャンルのサンプルパックということですね。

 

キックは「LSRW_Kick_04」、スネアは「LSRW_Snare_07」、トップループは「LSRW_128_Top_Drum_Loop_03」です。

特に、この独特なスネアがとっても良いですよね。

古臭くて安っぽくて、でもどこか懐かしくて…(1980年代には生まれてないのにね)。

 

また、フィルは思った通りのものがなかったので、2つのサンプルを組み合わせてオリジナルのフィルを作りました。

「LSRW_100_Drum_Fill_02」と「LSRW_128_Drum_Fill_04」を組み合わせています。


コンストラクションキット

前に書いた通り、今回は1から曲を作るのが面倒だったので、コンストラクションキットを使いました。

 

今回はDIGINOIZ「Modern Vocal Pop 4」を使っています。ここから、

 

「Diginoiz_-_MVP4_Stems 121Bpm F#Maj - Bass」

「Diginoiz_-_MVP4_Stems 121Bpm F#Maj - Synth」

「Diginoiz_-_MVP4_Stems 121Bpm F#Maj - Vocal Chop」

「Diginoiz_-_MVP4_Vocal 121Bpm F#Maj - Lead Vocals Dry」

 

の4つを抜き出して再構築、2分くらいの短い曲に加工しました。

それをスロー再生、そのうえでまた切り貼りして、この曲を作っています。

 

ちなみにこのコンストラクションキットはモダンなポップス~EDM系で、そんなに1980年代っぽい感じはありませんでした(製品名にモダンポップスって書いてるし…)。

 

でも、ドラム隊と音源を工夫したおかげか、スロー再生したらなんかそれっぽくなりました。

というより、ピッチの下がったボーカルを入れたらどんな曲でもVaporwaveになるような…。

 

あ、それと、vol.4があるということは、1~3もあるということです。

1つのサンプルパックには4~5個くらいのコンストラクションキットが入っていて、ボリュームとしては少ないのですが…。

でも、Vaporwaveに加工する分には便利ですし、ボーカル素材としてはまあまあ使えると思います。

全部買いましょう。ケチらず全部…。お金はジャブジャブ溶かしましょう。

 

 


わぁいVaporwave ヒズミVaporwave大好き

というわけで「wind evil 風邪で」の解説はおしまいです。

 

それにしても、僕は最近Vaporwaveにかなりハマってます。

つい最近終わってしまいましたが、24/7のVaporwaveラジオがあって、半月か1か月くらい、毎晩そのラジオを聴きながら寝てました。

 

それだけに留まらず、Vaporwaveのひとつの大きな源流、すなわち1980年代の海外CMも時折見るようになりました。

今回の記事では触れませんでしたが、頭空っぽにして支配者に操られ、消費資本主義にどっぷり浸かる時間、悔しいんですけど気持ちが良いんです…。

 

それくらい、僕はかなり1980年代に惹かれています。

そういう経緯があり、なんとDream Diary Page.03のテーマは「80s」に決定しました。

お兄ちゃんもVaporwaveが割と好きらしく、アルバムの企画会議でOKを貰いました。

 

Vaporwaveを中心に、ちょっとレトロな曲を作ろうと思っています。

多分2020/12/06に出るのでお楽しみに!